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その住宅は雲井町の通りから脇道に入った奥にありました。
ヴォーリズさんの御屋敷住宅の中でも代表的なものでした。
初めて行ったのは88年の2月28日でした。
日が射して暖かい日でした。
路地を入っていくと附属棟とそれを取り巻く塀が見え、更に進むと正面の門構えのずっと向こうに
たとえば現存物件で言えば小寺邸のようなスパニッシュ系の住宅が見えました。
引き返して裏の勝手口の辺りから見上げていると、「どうされましたか」と声をかけられました。
年齢は70歳くらい、黒いコートにメガネをかけた男性でした。
ワタシはヴォーリズさんの建築を訪ね歩いていること、この住宅は質の高い物件として知られていて今日初めて見に来たことなどをざっと話しました。
その男性は「そうですか」と一言いわれて、件の住宅へ入られました。
恐らくこの住宅の主であろうその男性の紳士らしい物言いと振る舞いは、建物とセットで記憶に刻まれました。
その次に見たのはやはり震災の後でした。
この路地に面した辺りは一見あまり被害がなく、この住宅も窓ガラスなどが健在だったことから、遠目には部分的に瓦が落ちたり所々の壁面にヒビが入ってるかな程度の被害に見えました。
正面にまわると入り口の辺りに損傷がありますが程度は軽そうに見えました。
それが最後の姿とは思いもしませんでした。
1年後の96年1月5日に行くと、既に一部の塀を残して更地になっていました。
この物件の手前にあった住宅群も軒並み更地となっていて
塀の敷地の一番手前にあった特徴的な部分が斜めに割れたまま、すっくと立って残されていました。
それから翌年にかけて数回見に行きましたが状況は変わらず風雨と草によってスタッフ塗りの壁面が風合いを増すばかりでした。ただ隣の敷地では新築が始まったりしていました。
数年空いて2000年の5月に行くと、その路地辺りはまるで建て売り住宅の区画のように真新しいメーカー系住宅らしき物が立ち並んでいました。
残されていた堀の高くそびえていた部分はクラックの辺りから撤去され、あたらしセメント塗りの塀とつながれていました。
建物があった辺りは未だ草が茂り、奥の塀はますますツタ状の草に覆われていました。
スタッフ塗りの質感とか規則的な開口そして天部分のセメント造形などが確かにそこにヴォーリズさんの手による住宅があったことを示しています。
こんな状態になっても部分的に塀が残っているのは恐らく意図的なのでしょう。
あれから6年ほど経ち現状は把握していませんが、おそらく、この塀を生かした住宅もしくは無くなった住宅の面影を持った住宅が建っているように思えるのです。
それは、住宅と黒いコートの紳士の記憶がワタシのなかに作りあげた妄想かも知れません。
建築という意図的な空間にまつわる記憶は、空間が失われたとしても、一瞬が生ある限り残るのでしょう。



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[準備中]
・「SUOMI CHAIRS」

<プロジェクトのリスト>
「イルマリ・タピオヴァーラ椅子展」 @Style shop. 2005.05.21-06.12
日本国内では見る機会のない作品を含めて全部で25点ほどを展示。

「ヨーロ・クッカプーロと柳原敏彦」 @GREEN WOODS 2005.11.12-13
クッカプーロさんの主要作品20点と柳原敏彦さんの木家具による構成。違う素材なのにデザインの根本で調和しているという妙。

「スオミと足塚由江」 @昭和堂 2006.06.23-25
フィンランドの家具と足塚由江さんのうつわでカフェをしました。

「米来留 いまはもういない」 @夏コミケット 2006.08.12発行
建築家ヴォーリズの失われてしまった作品を追い続けたドキュメント写真集。

「一脚の椅子 フィンユール」 @GREEN WOODS 2006.08.19-20
そこにあるだけで周りの空間を変える力を持つ椅子とは。

「カモナマイオフィス」 @某建て売り住宅 2006.09.16-18
「第二事業部の事務所が新築の住宅に移転する」 としたら?引っ越し系インスタレーション。

「1000脚の椅子」
工場の倉庫に眠る約1000脚の未完成の椅子を教材として活用しようという企画。
派生企画:智頭農林高校 学習成果展示 / 島根女子短大 Re:Chair展
 
「北欧の椅子と家具展」 @SOUKA-草花- 2006.12.08-11
古いビルのレストアされたペントハウスに北欧家具でLDを構築するインスタレーション。

「リートフェルトをつくって」 @SOUKA-草花- 2007.06.22-25
Rietveldさんの家具をダンボールで実寸模型に再現するワークショップ。

「机の帰還 」 @glass Onion 2007.07.19~
廃棄される学校机を店舗什器に再生する試み。

「シュレーディンガーの椅子 」 @Store Room 2007.09.07~
学校のようなお店に学校の椅子を納める。

「いまはもういない、のこと」 @夏コミケット 2007.08.19発行
ヴォーリズ建築の取材過程を記録したテキスト。

「キャンの岬はどっちですか。」@souka 07.11.17-18
「祈りの椅子」のプロトタイプに座ってみる。

「そしていまはもういない予告編」 @冬コミケット 2007.12.29

「そして、いまはもういない。」 @夏コミケット 2008.08.17
ヴォーリズ建築で失われて痕跡の儚いもの達。

「一脚の椅子 イルマリ・タピオヴァーラ」@「淀江の家」グラムデザイン 2008.10.04-05
ピルッカスツールを展示。

「いまはもういない、祈り」@冬コミケット 2008.12.30
キリスト教関係のヴォーリズ建築で知られざるもの達。

「古い家を借りて自分で直したら大きな黒板のある家ができた。ワタシの(^^)」@黒板亭 2008.03.--2009.04
廃屋寸前の賃貸住宅を順調に時を経たかのようにレストア。

「蒼天青雲 in 関西」@そうさく畑63 2009.04.05
既刊を関西地区で初配布。 山Dさんもお誘いして。

「ヴォーリズさんを探しに行った日々について」 2009.=
蒼天青雲にとっての「建築の保存」について話す。

「旧豊郷小学校写真集」@夏コミケット 2009.08.16
豊郷小学校=桜ヶ丘高校という繋がりと広がり。

ヴォーリズ建築文化全国ネットワーク第3回全国大会@近江八幡 2009.10.11
ヴォーリズファンしか居ない場によばれてヴォーリズさんの写真集を配布。

「みどりのはら」「近代残像 函館」「近代残像 長崎」@冬コミケット 2009.12.30
阿佐ヶ谷住宅へのオマージュ。函館と長崎、北と南の洋館が並ぶ港街。

「近代残像 京都」@コミティア92 2010.05.04
前世紀末の京都の町中における近代建築を紹介。

「米子市公会堂」 2010.07.15 +コミケット78
山陰に置かれた村野藤吾さんのグランドピアノについて。

「近代残像 神戸」@コミケット78 2010.08.15
神戸にある近代建築の様々な残り方と消え方。

「近代残像 湘南・箱根」@コミケット79 2010.12.31
太平洋に面して残る関東地方を取り巻いていた別荘地帯の痕跡。

「さくらはさく」@コミティア96 2011.05.05
千葉県浦安市の埋め立て地に咲く桜の花。

「マーリをつくって」@米子高等工業専門学校 2011.07.21
ダンボールで実物x0.8スケールの家具模型をつくる実習授業。

「近代残像 横浜」@コミケット80 2011.08.14
横浜で暮らした日々における近代建築との交わり。

「きらめけ!公会堂」@米子市公会堂 2011.10.21-23
写真集「米子市公会堂」を元にwebと連動したインスタレーションを実施。

「SUOMI CHAIR DESIGN 01. Alvar Aalto」 @コミティア98 2011.10.30
フィンランドの椅子デザインについて。

[以降、続いています


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